そろそろこの本の感想を書かねばなるまい。



夫のちんぽが入らない


しかし、あれだ。
「ちんぽ」という単語は、この本のおかげで完全に市民権を得た気がする。

本屋のカウンターで予約をし、届きましたの電話連絡のお姉さんの声。
「ご予約いただいておりました夫の…えー、(意を決したかのように)はい!ちんぽが入らないがですね、ご用意できましたあ」
…タイトルは言わなくてもいいですよと伝えておいたが、律儀な店員さんだ。
すまぬ。

こないだその本屋に行ったら、数冊ほど置いてありました。
「お探しの本はこちらです!!」のポップとともに。


          kinoko10.gif イラストに他意はありませんて



この本を読んで「なんで入らないの?」とか「病院に行けばいいのに」とか「夫婦なのにオカシイ」とか言う人と、私は友達になれないなあ。
だって、そういうことじゃないんだもの。


ちんぽ = 入るもの 
夫婦  = 入って当たり前



結婚したら子どもを持つのが当たり前で、夫婦は入ってこそ幸せなのよという方たちに向けてこそ、この本の真のメッセージが生きてくる。
たまたまこの本では「入らない」というのが軸になっているけれど、100組の夫婦がいれば100個の夫婦の形というものがあるわけで、「入らない問題」に匹敵するか、あるいはそれ以上の深刻なモンダイを、100組の夫婦は抱えながら今日も生きているのかもしれない。


というか、現実そうじゃないか?
何が普通かと問われれば、普通なんかないのだと答えるしかない。
ひっそりと抱え込んだ問題なら うちにだってある。
そっちのほうが「普通」なのではないか。


            kinoko03.gif


読み終えた後、まず最初に思ったのは、
ああ、「私」さんはこんな大きな問題を抱えて生きてこられたのだなということ。
事情も知らぬ他人からの無神経な言葉に どれだけ傷ついてきたんだろう。


次に思ったのは、ジャガー横田の逞しさをとうとうと説く保険外交員のおばさんのように、自分も知らず知らずのうちに他人を傷つけてはいないかということ。
結婚はいいよー、高齢出産も悪くないよー♪
自分にとってそれがたまたま良かったとしても、他の人にそれが当てはまるはずもないのに。
きっと無意識に言っちゃってるなぁ私…。ああ、言ってるわ。


逆に、「子どもは絶対2人以上産んだ方がいい」とか「高齢出産は卵子も年取ってるからよくない」とか、実際に面と向かって言われたこと、何度もある。
みんな自分の生き方を正当化したいがために 他人をその型に当てはめようとする。
私もしかり。
いかにもそれが「ふつう」なんだという顔をして。


          
           kinoko08.gif



最後に、「私」さんの夫さんへの深い愛情に感動したこと。


チーズフォンデュのエピソードや、夫さんが目をかけていた教え子のためにあつあつのご飯で鮭のおにぎりを作るところや、「あの人子どもいないから人の気持ちが分からないんだよ」という同僚の会話を聞きながら、「ふと、夫も職場で同じようなことを言われているのではないかと想像して悲しくなった」(p.187)など、随所に愛を感じて胸が熱くなる。本全体に愛が、あふれている。
ああ、素敵なご夫婦だなあ…。


夫さんのために迷いなく車を走らせチーズフォンデュの材料一式を買いに行ったり、『夫の大事にしている仕事や教え子が、自分にとっても同じくらい大事なものになった』なんて、あなた、言えますか? 私も夫を愛しているけど、正直そこまでではない。



          kinoko02.gif



「私」が実母と二人で義実家に謝りに行くシーン。
お宅の後継ぎを産んであげることができず、本当に申し訳ありませんと頭を下げる母。困惑する義父と義母。
もう本当やめてあげて!と叫びそうになる。


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…食べることだけに集中した。いくら、うに。今、動きを止めると、涙がこぼれ落ちてしまう。目を大きく開き、大げさに噛む。顔の筋肉をいっぱい使う。私の器官が悲しい信号を受け取ってしまわぬように。いくら、いくら、いくら。…(p.167)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



そして最後の3ページ。
ほとんどの人は、ここでこだまさんの文章力に圧倒されるだろう。


この本に出会って、私は今までの自分の無神経さに腹が立ったし、今後二度と人の人生に軽々しく(冗談でも)それは違うよなどと言わないと誓った。
「入らない」ことが問題なのではなくて、「入らない」人たちに寛容でない世間の目こそが問題なのだと。



            kinoko06.gif キングやな。



話はいきなり変わるが、奇しくもちょうど今出ているE KISSという雑誌に、「入らない」に関連した内容のマンガが掲載されている。
あの『逃げるが恥だが役に立つ』の番外編、百合ちゃんと風見さんのその後のお話。


いい感じで付き合いだした二人だが、百合ちゃんはご存知高齢処女。
順調に愛を育み、いざお泊まりとなった時なんと!入らなかったのです。


詳しくはこちらに紹介されているので見てください。(ネタバレ注意)
  ↓  ↓  ↓
最新話!番外編・逃げるは恥だが役に立つ【感想・ネタバレ】(E KISS)
http://kojimangavip.com/2017/02/nigehajibangaihen/


その時の風見さんのセリフにキュンときます。
実は処女だと打ち明ける百合ちゃんに


風見『だからたぶん 僕は好きな人と肌が触れ合ったりじゃれあったり 幸せな気持ちになることの方が好きなんだと思います。』

『だから朝まで一緒にいてください 入っても入らなくてもいいし あと…』



行為そのものではなく、問題は“相手の気持ち”。
入っても入らなくてもいい。風見さんの気持ちが分かっただけで十分。
実際、入らなかった時の百合ちゃんはとても幸せそうな顔をしていました。


幸せの形はいろいろあって、それは当人にしか分からないことなので、周りがとやかく言うなということ。
当人がふっ切れているならいいけれど、さんざん悩んだり苦しんでいる人にとっては、他人を基準にしたアドバイスなど大きなお世話というもの。


多様性を認めるというのは、ひいては世界平和につながるものだ、と私は信じている。
ムスリムがテロリストだとなぜ決めつけるのか。
ちんぽが入らない=不幸 だと誰が決めたのか。根底は同じだ。
じゃあLGBTの人はどうなんだ?って話。
自分の周りだけが「普通」だと思うのは、とても危険なことだ。
私も以後、気をつけます。



最後に。
この本を世間に出すべく尽力して下さった方々に敬意を表します。
私には、声が届きましたことを、ここにご報告申し上げます。
(「私の声、届くだろうか」というこだまさんの一文に答えて)
いい本を ありがとうございました。



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