小学校で習った4大公害とは、確か水俣病、第2水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく…であったと記憶している。
「カネミ油症」のカの字も、習わなかったように思う。
1968年(昭和43年)に患者が発症しているので、当時すでに問題となっていたはずだが。
しかも先の4大公害病は、すべて裁判では住民側の勝訴が確定している(もちろん対策や補償が十分であったとは言えない)が、カネミ油症は40余年以上経った今なお 和解金も支払われておらず、患者の医療費負担の見通しも不安定という状態にあるという。

教科書でも習わず、マスコミに取り上げられることも少なく、事件自体風化の一途をたどっているように思える。
その事件があったことを知る大人が どのくらい居るだろうか。
少なくとも私はこの本を読むまで、恥ずかしながら詳しいことは何も知らなかった。

被害者はいまだ苦しめられ続けている。
それどころか、被害は終わるどころか世代を越えて広がっているという。
事件はまだ終わっていないのだ。


カネミ油症ー終わらない食品被害 吉野高幸著(海鳥社




【カネミ油症事件】
1968年、北九州市に本社を置くカネミ倉庫が製造した食用の米ぬか油を食べた西日本一帯の1万4000人以上が吹き出物や内臓の疾患、がんなどの被害を訴えた。原因は油に含まれた猛毒のダイオキシン類。患者の症状は43年がたった今も続くが、公的な救済は一切行われていない。認定患者は2010年3月末現在、1941人(うち死亡者数557人)。被害者は医療費の公的負担などを盛り込んだ「カネミ油症被害者救済法案」の成立を強く訴えている。



カネミ油症事件は、世界で初めての、人類史上最大のダイオキシン被害である。
ダイオキシンを天ぷらにして、あるいはドーナツを揚げて食べた人が他にいるか。

「美容と健康にいい」そんな謳い文句で売られた米ぬか油。
その油を使用した人たちにだけ次々に現れた奇妙な症状。
体中の吹き出物、手足のしびれ、むくみ、倦怠感、皮膚の色素沈着、足の爪の黒変化とゆがみ、視力低下、永久歯の欠落、肝・腎機能障害、骨の変形、大量の脱毛、そしてがん・・・。

被害者はのべ1万4000人以上。
この「毒の油」を食べた患者から、「黒い赤ちゃん」が産まれた。
この奇病の原因が、油に含まれていたPCB(ポリ塩化ビフェニール、商品名カネクロール400)と分かってからも、「PCBを食べた例は世界のどこにもなく、したがって治療法もなかった」(本文より引用p25)


               bbs15.gif


カネミ油症事件は、もしかしたら防げたかもしれない。
人間に症状が出る以前に、ニワトリに発症した「ダーク油事件」が起こっていたからである。


昭和43年2月、西日本で49万羽のニワトリの大量死が発生した。
これらのニワトリは、カネミ倉庫が製造したダーク油を飼料として与えられていた。
後に、ダーク油より多量のPCBが検出されることとなるが、当時の農林省は、原因を突き止めることをせず、油の変質が原因として片付けた。
農林省は、カネミ倉庫で同じ製造過程で作られているカネミ・ライスオイルの品質検査もせず、カネミ倉庫に対しては品質管理を十分に行うように命じただけだった。


もしこの時、国がきちんと原因究明をし、対策をとっていれば、こんなに大きな被害にならずに済んだ。・・・よね?


               bbs02.gif


しかし、私が一番驚いたのは、次の判決である。

第二陣訴訟の高裁判決(昭和61年)で蓑田速夫裁判長が出した判決は
「ダーク油事件に対応した農林省(当時)担当者らに食用油への危険性は予見できなかった。厚生省に連絡通報する義務もなく、行政に落ち度はなかった」
さらにPCBを製造・販売した鐘化の製造物責任も否定、カネミ倉庫の過失責任と加藤三之輔社長の代理監督者責任のみを認める内容だった」(p144)


・・・・・は?


国の食品に関する安全基準は、基本的に「自由裁量」であり「後見的」なものであると位置づけ…(p144)


一番意味が分かりやすかったgoo辞書より↓

【自由裁量】法の規定が十分でない場合に、判断や行為が行政庁に任せられること。
【後見】年少の家長・主人などの後ろだてとなって補佐すること。また、その役目の人。後(うし)ろ見(み)。


要は、
国「PCBがそんなに危ないものだなんて知らなかったんだもん、だからろくに調べなかったし、管轄の違う厚生省に報告する必要もないと思ったんだもん、自由裁量だもん」を
裁判官「うんうんそうだよねー。分かんなかったよねー。ちょっと危ないかなーくらいだったもんね。倉庫の人が食用油は大丈夫って言ってたんだもん。さらにしつこく調べる義務は君にはなかったようんうん。仮に報告したとしても食品衛生担当官庁が切迫した事態だって気づいたとは限らないもんねー♪」
…ということか。


鐘化に至っては、PCBの毒性や金属の腐敗性を知っていながら、最低限の注意書きのみで食品業界に売り込んだ責任はまったく問われず、むしろカタログにその最低限の注意事項が記載されていたから注意義務違反はない、と。
食品に使うものなんですから、ピンホールの穴が開いても大惨事になるくらいの猛毒です…と断るくらいの注意喚起が必要だったと思いますが
(ていうかまず食品の製造に使うのもどうかと思いますがね)


この汚点とも言える判決が、一連の裁判の流れを変えたとも言われている。
繰り返すが、現在まで、被害者に対する国の補償は一切ない。


               bbs07.gif


企業が利潤追求をすればするほど、食品公害の危険は高くなる。
その企業の動きに歯止めをかけ、危険を防止する役目こそ国にあるのではないの?

食品を食品として摂って、健康を害した。
被害者には何の落ち度もない。
誰かがやるべきことをしなかったために、事件は起きた。
責任は誰にあるのか?
深刻な被害に苦しんでいる人を救済すべきは誰なのか?


               bbs13.gif


①ニワトリ事故の原因がカネミ倉庫のダーク油だと知り、カネミ倉庫の工場の実態調査をしながら「ダーク油は食用油とは無関係」と強調する加藤社長の言葉を信じ、製造過程の一部が共有する食用油の安全確認をせず、食品衛生の行政庁である厚生省への通報を怠った農林省福岡肥飼料検査所の職員。


②福岡肥飼研からの鑑定依頼により、ひな鶏による実験を行い、原因がダーク油にあると確認しながら(ダーク油には1300ppm のカネクロール400が含まれていたことが後で分かる)詳しい原料の科学的分析をせず、単に「油脂が変質したために起こった中毒である」と報告した農林省家畜衛生試験場の職員。


③福岡肥飼研からの報告を受け、それを指導する立場にありながら漫然と報告を鵜呑みにし、食品の安全性が疑われるような事実があったにもかかわらず所轄の厚生省に通報せず、適切な対抗策をとらずに放置。結局なにもしなかった農林本省の役人。


④家族内発症を特徴としているのに中毒事件とはとらえず、患者がライスオイルを持ち込み分析して欲しいと訴えたにもかかわらず分析はせず、学会発表のためにデータ収集や原因の分析にのみ時間を費やし、ライスオイルが原因と知りながら保健所への申請や公表もせず、ただ漫然と患者を診察するばかりで被害を拡大させた九州大学病院皮膚科はじめ周辺の病院。


⑤PCBが人体に入ると皮膚や内蔵にさまざまな障害を起こすという事実を知りながら、カネミ倉庫に不当に安心感を植え付けるようなセールスをし、積極的に販売しながらも使用や使用後までの責任を否定し、罪をカネミ倉庫のみに押し付けた鐘化。


⑥効率アップ・大量生産のために、PCBの通る過熱パイプを直接食品に触れるような独自の工程を加え安全を軽視し、事故を繰り返していたにもかかわらずPCBの漏れたピンホールの穴を見過ごし(接続部から漏れたということが後に分かる)、ある時期にPCBの残量が激減したことに気づきながらもそれを放置し、ライスオイルが原因ではないと主張し、最初のうちは検査にも非協力的で、そのまま販売を続け被害を拡大したカネミ倉庫。



・・・・・責任は、どこにある?


              bbs03.gif


あのオイルさえ使わなければ、普通の人と同じような人生を送っていたはずの人たち。
世間では、いまだに「ダイオキシンは食べても無害」と主張する人もいる。
こうした誤った認識による偏見との戦い。
想像を絶するほどの精神的苦痛。
健康な身体、命、裁判に費やした時間は戻ることはないけれど、一日も早く認定基準を緩和し、一人でも多くの人を救済して欲しい。
40余年間も苦しんだのだから、もうそろそろその苦しみを終わりにさせてあげたい。
国は一刻も早くカネミ油症患者の恒久的救済法を成立せよ。
私たち国民も、無関係ではない。
国民の健康より企業の利潤を優先するこの国では、いつ誰が食品公害の被害者になってもおかしくないのだ。
私たち一人一人にも きっとできることがあるはずだと思う。




関連記事
スポンサーサイト


コメント

    コメントの投稿

    (コメントの編集・削除時に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)


    トラックバック

    Trackback URL
    Trackbacks